夢舞台への熱き想い
2020年7月24日の日本海新聞に、東京オリンピック聖火ランナーを務める当会副会長の今本由紀の特集記事が掲載されています。
日本海新聞さんの許可を頂きましたので、記事全文を掲載いたします。
夢舞台への熱き思い 東京五輪へ再出発
聖火ランナーの今本由紀さん(鳥取) 盲ろう者アピールの場に
「走るときは1回、止まるときは2回、ロープを引っ張ります」-。
梅雨の晴れ間が広がった18日、鳥取市のコカ・コーラ総合運動公園に、ロープでつくった輪を握り、2人一組で走る女性の姿があった。
鳥取県内を走る聖火ランナーで、視覚と聴覚に障害がある今本由紀さん(48)=同市。
自身と同じ「盲ろう者」に、社会に参加する一歩を踏み出してもらおうと、伴走者によるサポートを受けて出場することを決めた。
■「きずな」ロープ
この日は、トーチに見立てたプラスチック製の野球バットを掲げ、公園内を周回。
20分程度、汗を流した。
今本さんと伴走者をつなぐのは「きずな」と呼ばれるロープ。
目が見えにくく、耳が聞こえない今本さんにとっては、このロープが走行中の道しるべであり、伴走者とのコミュニケーション手段となる。
「盲ろう者のことをよく分かってくれている伴走者だからこそ、安心して委ねられる」と手の感覚に神経を集中させて走る。
生まれつき聞こえなかった耳とは違い、今本さんの視野はゆっくりと奪われていった。
視覚障害の診断を受けたのは20歳を過ぎた頃。
まだ車の運転ができるほど見えていたが、年を追うごとに、目に入る世界が狭くなっていった。
「当時は盲ろうについての情報も少なかったので、聞こえない上に、見えないなんて自分だけだと思っていた。誰にも相談できなかった。」
ふさぎ込む今本さんを「盲ろう者友の会」の会員が支えた。
月に1度開かれる交流会で出会う、同じ困難を抱えた仲間たちの存在が、今本さんを孤独感から救った。
現在は同会の副会長を務め、盲ろう者をサポートする立場になった。
■仲間への恩返し
聖火リレーへの出場は、いわば仲間たちへの「恩返し」だ。
同会のホームページによると、県内に住む盲ろう者は約80人。
対して、交流会に参加しているのは10人程度と少ないのが現状だ。
今本さんはその要因を「視覚障害者や聴覚障害者と違い、盲ろう者はまだ認知度が低く、社会参加を阻む要因になっている」と分析。
聖火リレーを世間へのアピールのチャンスと捉えている。
「私が走っている姿を同じ困難を抱える仲間や、その家族に見てもらいたい。
(盲ろう者でも)安心して社会参加できることを知ってほしい」と今本さん。
聖火が盲ろう者と社会をつなぐ未来を思い描く。(佐々木駿)